ベアリング(軸受)は油やグリスなどの潤滑材を入れて使います。
外部から水などの異物が入ると潤滑材が機能せず、
ベアリングが損傷する原因となります。
通常はオイルシールなどを使い密封しますが、
ベアリングの使用環境によっては水の侵入を防ぎきれない場合があります。
本記事ではベアリングへの水の侵入をより強力に防止するための、
具体的なシール方法を紹介します。
ベアリングへの水の侵入を防ぐ方法
シール性の向上が期待できるハード対策の例を9つ紹介します。
水などの異物侵入を特に嫌う設備では、
これらの中から複数を組み合わせて設計します。
ラビリンス構造を取り入れる
外部からベアリングに至るまでの流路を複雑に入り組ませた構造を
「ラビリンス構造」と呼びます。
流路が複雑であるため侵入してくる水の抵抗が増え、
ベアリングに到達し難くなります。
回転軸とは接触せず摩耗がないので、メンテナンスが楽というメリットがあります。
一方で隙間が狭すぎると振動・据付誤差・軸の熱伸び等により、
回転部が接触するデメリットもあるので、設計する際は注意が必要です。
シールメーカーによっては、ラビリンス構造となっている
「ラビリンスシール」を商品として販売しています。
油みぞを追加する
回転部に小さな凹部を複数設けてグリスを溜める事で、
外部からの水や異物をキャッチしベアリングへの侵入を防ぎます。
油溝は軸側or軸受側orその両方に追加するパターンがあります。
(図は軸受側に追加した場合です)
回転軸とは接触せず摩耗がないので、メンテナンスが楽というメリットがあります。
オイルシールのリップを外側に向ける
オイルシールの取付には「向き」があります。
構造上、リップが向く方向にはグリスや異物が通過しやすく、
逆方向には通過し難くなります。
従ってオイルシールのリップを外側に向ける事で外部からの水を防ぎ易くなります。
一方で内部のグリスは漏出し易くなるので、グリスの定期的な補給が必要です。
オイルシールを二重に使う
筆者の経験上、簡単かつ最もシール性向上が期待できる対策です。
オイルシールを二重に使うことで水がベアリングへ到達するまでの
抵抗が倍増します。
また2つのオイルシールの間にグリスが溜まり、
水や油をキャッチしてくれます。
注意点としては軸の回転抵抗が増える事です。
設計する際は駆動トルクに余裕があるか確認しましょう。
補助リップ付きのオイルシールを使う
通常のオイルシールは主リップのみしかありませんが、
補助リップ付きの型式もあります。
主リップと補助リップにより2重にシールされるのでシール性が向上します。
またリップ間の溜まったグリスが水や異物をキャッチするので、
ベアリングへの到達を防ぐことができます。
オイルシールを二重にするスペースが無い時などに
試してみると良いです。
オイルシールの材質を変える
オイルシールはゴムの材質によって油への耐性や使用温度(耐熱温度)が異なります。
特に汎用材質のニトリルゴム(NBR)の場合は使用温度が100℃程度なので、
設備の使用環境や回転の摩擦により簡単に使用温度を超えます。
オイルシール直近の軸の温度を測定するか、
使用後のオイルシールのゴムが熱硬化しているかどうか確認し、
使用温度を超えていれば材質変更をお勧めします。
オイルシールで使われるゴムの材質と使用温度を表に示します。
メーカーにより使用温度(耐熱温度)として記載している数字は若干異なりますが、
おおよそ以下の通りです。
ゴムの種類 | 材質 | 使用温度 |
---|---|---|
ニトリルゴム | NBR | 約100℃ |
アクリルゴム | ACM | 約150℃ |
シリコンゴム | VMQ | 約200℃ |
フッ素ゴム | FKM | 約230℃ |
(参考:NOK公式サイト、武蔵オイルシール工業公式サイト、モノタロウ)
使用温度が高い材質ほど高価になりますので、
費用対効果を考慮して材質を選定しましょう。
軸の硬度を上げる
オイルシールのリップ先端は軸表面を削り取り、軸に凹状の溝が生じます。
意外に思われるかもしれませんが、ゴムと金属の接触であっても金属側も削り取られます。
軸が削られると隙間が生じて水が浸入し易くなりますので、
オイルシールと接触する範囲は硬化肉盛り等で
硬度を上げると良いです。
必要な硬度や表面粗さはシールメーカーのカタログ値を参考にしましょう。
面接触シールを採用する
オイルシールはリップ先端と軸との接触幅が狭く、線接触の状態となります。
接触幅が狭いと面圧が上がり、シール・軸側共に摩耗し易くなります。
また、狭い幅を通過しただけですぐに水がベアリングに到達する事になります。
(=シールしている距離が短い)
そこで面接触シール採用するという手があります。
このタイプのシールはリップの接触幅が広いため、
面圧が下がり摩耗しにくい、接触幅が長く水が通過し難い、という利点があります。
(参考:スターライト工業 ALPリップシール)
ただしオイルシールと構造が異なるため、
許容芯ずれ量などの仕様が下がる場合もあるので注意しましょう。
オイルエアー潤滑方式とする
ベアリングの潤滑方式の一つに「オイルエアー潤滑方式」があります。
オイルとエアー(圧空)を混ぜてベアリングに送り、
潤滑および軸受内の陽圧化を測る手法です。
(参考:JTEKT公式サイト)
エアーによる圧力が常に軸受の内部に張るため、
シール部から外部に漏れるエアーが水や異物の侵入を防ぎます。
オイルエアー潤滑方式の導入には専用の装置が必要ですので、
費用は高くなります。
まとめ
ベアリングへの水・異物の侵入を防ぐ方法を9つ紹介しました。
通常はこれらの中から複数を組み合わせて設計します。
- ラビリンス構造を取り入れる
- 油みぞを追加する
- オイルシールのリップを外側に向ける
- オイルシールを二重に使う
- 補助リップ付きのオイルシールを使う
- オイルシールの材質を変える
- 軸の硬度を上げる
- 面接触シールを採用する
- オイルエアー潤滑方式とする
筆者の経験上、対策が比較的簡単かつ効果の高い組み合わせは①,③,④,⑥,⑦です。
水や異物の侵入を防止し、ベアリングの寿命を全うさせましょう。