プラント・設備は水、ガス、空気、蒸気といった
様々な流体を扱いながら稼働しています。
これらの流体を運ぶ機器が「配管」であり、
プラントの血管と例えられるほど重要な役割を担います。
配管設計に不具合があると設備が稼働しない、メンテナンスができない、事故の発生、
といった様々なトラブルに発展します。
本記事では配管設計の流れと、配管設計における注意点を解説します。
配管設計の手順
配管設計は以下の手順で行います。
以下に各々のステップを詳しく解説していきます。
①配管系統の理解
まずは対象となる配管系統の情報を集めます。
情報は多いに越したことはありませんが、最低限として以下を把握しましょう。
- 圧力
- 流量
- 温度
- 運転条件
既設配管から分岐させて設備改造する場合には、
既設系統の情報収集も大切です。
- 圧力・流量の変動量
- 圧損の実測値
- 性状・不純物などの情報
- 振動の有無
といった既設系統の情報を可能な限りを調べます。
②P&ID(=配管系統図)の作成
配管設計の全てはP&ID(Piping & Instrumentation Diagramの略)
の作成から始まります。
P&IDは「配管系統図」や「配管計装図」とも言われます。
構成要素、機器の配置と数、プロセスの流れを
掴むために作成され、設計の土台となる重要な図面です。
仮にP&ID作成段階の詰めが甘く、
バルブや機器の抜け漏れがある状態で設計を進めてしまうと、
後から追加するのが大変になります。
必要な機器の情報は抜け漏れなく記載しましょう。
③配管レイアウトの検討
各流体の標準流速から配管径を仮置きし、
配管レイアウトを検討していきます。
標準流速とは、各流体に対して
「この程度の流速になるよう配管径を決めると良い」という基準になる流速です。
圧力損失の低減を考えると配管径を大きくして流速を落とした方が良いです。
一方で配管径が大きくなると材料費などのコストが上がり経済的ではありません。
「圧力損失の低減」と「配管工事のコスト」のバランスが取れた
適切な流速を「標準流速」と言います。
標準流速は会社の設計基準で決められている事が多いですが、
おおよそ以下の通りです。
- 水 1.5~2m/s
- エアー 15~20m/s
- 蒸気 20~30m/s
「標準流速を少し下回る程度の流速」となるように配管径を決めるのが一般的です。
標準流速から配管径を仮置きした後は、
計画図を作成して配管レイアウトを決めます。
計画図(配管レイアウト図)は以下の情報が
他人に伝わり易いように書くことが重要です。
- 配管径
- バルブの型式
- 曲がり・分岐の位置
- 配管サポートの取り方
④圧力損失計算
計画図(配管レイアウト図)を基に圧力損失を計算します。
圧力損失は以下のダルシー・ワイスバッハの式で計算できます。
$$\Delta P=\lambda \frac{L}{D}\frac{\rho v^2}{2}$$
- \(\Delta P\):圧力損失 \(\rm{(Pa)}\)
- \(\lambda\):管摩擦係数 \(\rm{(無次元)}\)
- \(L\):配管長さ \(\rm{(m)}\)
- \(D\):配管内径 \(\rm{(m)}\)
- \(\rho\):流体の密度 \(\rm{(kg/m^3)}\)
- \(v\):流速 \(\rm{(m/s)}\)
計算方法の詳細は別の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
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元圧(供給圧)から圧力損失を引いた末端圧力が、
必要圧力以上であればOKです。
必要圧力以下となる場合は、元圧を上げるか、
計画図を見直して圧力損失を減らします。
設計的に圧力損失を減らす方法としては、
- 配管径を上げて流速を落とす
- 曲がりを減らして直線に這わせる
- バルブの型式を変更する
などの方法があります。
圧力損失を減らす方法の詳細は以下の記事で解説しています。
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⑤管径・バルブ類の確定
圧力損失が許容値以下になるまで、圧力損失計算と計画図の見直しを繰り返し、
最終的な配管径、バルブ型式を決めます。
⑥アイソメ図の作成
配管レイアウト、配管径、バルブ類の配置が確定したら
アイソメ図を作成します。
アイソメ図とは、立体的な配管レイアウトが一目で分かるように作成される図面で、
配管全体を斜め上から見た時の系統図のようなものです。
配管の制作・取り付けのために必要な図面ですが、
小規模な配置工事であればアイソメ図は割愛されることもあります。
配管設計における注意点
メンテナンス性の考慮は必須
プラント・設備が長く安定的に稼働できるように、
メンテナンス性の考慮は必須です。
配管レイアウトを検討する段階で、以下の点を意識しましょう。
- バルブや機器に人がアクセス可能か?
- 周囲にバルブや機器の取り外し・吊り上げに支障となる物はないか?
- 既存の通路や作業スペースを潰してしまわないか?
- 既存の設備・配管のメンテナンス性を阻害しないか?
鋼管とステンレス管を繋ぐ場合は注意
腐食を嫌う配管ではステンレス管を使いますが、
ステンレス管と鋼管を繋ぐ場合は注意が必要です。
「腐食しやすい鋼管」と、「腐食しにくいステンレス管」を直接繋ぐと、
異種金属接触腐食が発生し、鋼管側が通常よりも激しく腐食します。
(異種金属接触腐食の詳細については、こちらが分かりやすいです)
鋼管とステンレス管を繋ぐ場合は、
「絶縁フランジ」や「絶縁ユニオン」を使用し、
電気的に接触させない状態にしましょう。
絶縁ユニオンの例
(図の引用元:ステンレス鋼管と異種金属とを接続する場合の絶縁施工について)
圧力損失は多めに見積もった方が「身のため」
設計段階で想定する圧力損失は多めに見積もった方が良いです。
配管設計では「途中で配管ルートを微修正する」、「バルブが追加で必要になる」、
といった事態が多々あります。
圧力損失が許容値ギリギリの状態で設計していると、
こうした修正が難しくなります。
また施工後の、
「流用や水質が想定と異なり、思ったより圧力損失が大きい」、
という失敗に対する保険にもなります。
従って圧力損失は多めに見積もって、
その後の設計や機器選定をしておくことをお勧めします。
どれだけ安全側に見るかは失敗のリスクと費用との兼ね合いです。
参考までに私の場合は、計算値の1.5倍前後の安全率を掛けて
圧力損失を多めに見積もっています。
まとめ
配管設計の流れと、注意点を解説しました。
ポイントをまとめます。
- 配管設計は「系統の理解」→「P&ID作成」→「レイアウト検討」→
「圧力損失計算」→「管径・バルブ類の確定」→「アイソメ図の作成」の流れ - 設備仕様を満足するだけでなく、メンテナンス性の考慮も必須
- 鋼管とステンレス管を繋ぐ場合は絶縁ユニオン、絶縁フランジを使う
- 圧力損失は多めに見積もって設計しておくと、後戻りが少なくて済む
皆様の参考になれば幸いです。