プラントや設備に関係する技術的な業務のことを、
広く「プラントエンジニアリング」と呼びます。
本記事ではプラントエンジニアの役割と、仕事の流れを詳しく解説します。
プラントエンジニアリングとは?
「エンジニアリング」の定義
エンジニアリング(engineering)の英語を直訳すると「工学」です。
単に学問を指すだけでなく、「技術を開発・改善する事」「モノ・サービスを生み出す事」
という広い意味でも使われます。
またプラント業界やシステム業界においては、与えられた予算、納期の中で仕事を進める事も
「エンジニアリング」の意味に含まれます。
即ちエンジニアリングとは、
「科学技術を応用し、与えられた金と時間の中で、最適なモノやサービスを生み出す活動」
と言えます。
プラントエンジニアの場合は、扱うモノが「プラント設備」という事になります。
プラントエンジニアの役割
エンジニアリングの定義を基にすると、プラントエンジニアの役割は
「最適仕様の設備を、安く、早く」完成させる事です。
仕事では常に、
- プラント設備の能力に過不足は無いか(最適な仕様か)?
- 部品や資材を安く調達できないか?
- 納期や工事期間はもう少し短くならないか?
を意識する必要があります。
「最適な仕様」「安く」「早く」の3つの両立は簡単ではありませんが、
どれか1つでも欠けると良いエンジニアリングとは言えません。
またプラントエンジニアの中でも、プラントを保有するオーナー企業側で働く人を
「オーナーズエンジニア」と呼びます。
オーナーズエンジニアの役割については、別の記事で詳しく解説しています。
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必要な知識と能力
プラントエンジニアリングを遂行するには、「多くのルール・法律を順守すること」、
「様々な知識を駆使すること」、「関係先と密接にコミュニケーションを取ること」
が求められます。
<守るべきルール・法律の例>
- 周辺住民のための各種規制(騒音、水質、粉塵など)
- JIS、ISOなどの規格
- 事故や災害を防止するための安全設計
<必要な知識の例>
- 機械力学、材料力学、流体力学、伝熱工学、制御工学などの学問的な知識
- ねじ、軸受、モーター、ギアなどの要素技術の知識
- 工法や見積積算の知識
<関係先の例>
- 営業、設計、調達、製造現場などの社内関係先
- メーカー、商社、施工者などの外部業者
- 消防、官庁などの公的機関
プラントエンジニアリングは非常に多くの人を巻き込んで進めていく仕事です。
関係先と良好な関係を保ちながら上手く仕事を頼む方法については、
別の記事で詳しく解説しています。
プラントエンジニアリングの流れ
プラントエンジニアリングの一連の流れを図にすると、以下のようになります。
自分の属する会社組織によって、どの段階から参加するかが変わります。
ニーズ調査、仕様検討
製造現場・客先のニーズを調査し、プラント設備の要求仕様を決める作業です。
作った後で「欲しかったモノと違う」とならないよう、
「物性○○の材料△△tonを毎分××m運搬したい」のように
ニーズは定量的に聞き出す事が大切です。
基本設計
プラント設備の要求仕様が決まったら、
機構、機器の構成、駆動系の仕様などを決定し基本計画図を作成します。
基本計画図は客先へのプレゼンや、後の見積作業にも使う事を意識し、
外観、仕様、機器構成、系統図(P&ID図)、重量などの情報を織り込みます。
費用・納期の見積
基本計画図を基に、建設費用と納期を見積ります。
機器メーカーや施工業者と言った様々な関係先に見積を依頼し、
それを集約してプラント設備の建設費用と納期を算出します。
単純な作業に見えますが、私の考えではエンジニアリングの良し悪しの
8割方はこの作業の精度で決まります。
計画全体の中で、いかに費用・納期に効いてくるポイントを見極め、
限られた期間内に的を絞って詳細検討と費用算出を行い、
精度の良い見積を回答できるか、がプラントエンジニアの腕の見せ所です。
また、客先に回答する際はギリギリの費用・納期を設定するのではなく、
多少の余裕を見込んで回答するのが基本です。
エンジニアリングでは多少のトラブルや方針変更、計画の抜け漏れが付きものです。
余裕を見込んで計画しておき、多少の不測の事態は耐えられるように備えておくのが、
エンジニアリングを円滑に進めるコツです。
契約
企画した内容を客先に提案し、契約を結んで初めて実行段階に入れます。
契約できなかった場合は対価は払われないので、
企画した内容は無に帰す事になります。
つまりこれまで紹介した企画段階の仕事は、
「契約できなかったら無駄になる可能性のある仕事」になります。
企画段階の仕事にどれだけリソースを注ぐか(力を入れるか)は
企業によって考え方はそれぞれですが、費用対効果のバランス感覚が大切です。
詳細設計
契約後、まずは基本計画図を形にしていく詳細設計の作業に入ります。
製作メーカーや施工会社といった社外関係先、
機械/電気/土木の各部門や製造現場などの社内関係先と協議しながら
設計を詰めていきます。
作図したら後工程の製作・工事に入って良いか確認するために
検図やデザインレビュー(設計レビュー)を行います。
設計ミスによる手戻りが無いよう、
この段階でしっかり確認しておくことが重要です。
検図のポイントについては以下の記事で解説しています。
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また設計ミスの事例と防ぎ方については以下の記事で解説しています。
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調達・製作
詳細設計図に沿って必要な設備・機器・資材を発注します。
発注の際は、購入品の仕様を明確にするための「購入仕様書」を作成します。
設計部門が購入仕様書を作成し、外部との契約手続きや金額交渉は調達部門が
行う事が多いです。
購入仕様書の書き方については以下の記事で解説しています。
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特注の設備などを発注した際は、仕様書通りに製作が進んでいるか確認するため、
納入前に中間検査や出荷前検査に行く場合があります。
工事に入ると手直しの時間がないので、不具合があればこの段階で
指摘・修正しておけるよう、入念にチェックが必要です。
工事
詳細設計図の通りにプラント設備を組立・据付していきます。
施工業者が事前に施工図・施工計画書・工事工程表を作成し、
その通りに工事を進めます。
プラントは工事のために休止できる時間が限られているので、
昼夜二交替の24時間体制で工事を進める事が多いです。
工事中は大小様々なトラブル・不具合が起こります。
- ボルト穴の位置が合わない
- 物が干渉して入らない
- 流用する予定だった既設品が壊れていた
といったトラブルが散発しますが、
対処法を迅速に判断して時間内に工事を完了させなければなりません。
施工業者だけでは対処法の判断が付かない場合もあるので、
工事期間中は設計者も張り付きになります。
起こりうるトラブルを想定し、事前にどれだけ対処法を考えておけるかが、
工事の進捗を左右します。
試運転
客先にプラント設備を引き渡す前に、動作確認と機能テストを行います。
問題が無ければ引き渡しに移り、不具合があれば原因究明と対策を行います。
試運転もプラントの休止中に行うため、使える時間が限られます。
時間内に試運転を完了できるよう「最低限、何の動作を確認すれば良いか」、
「短時間で完了するにはどの手順が最適か」、段取りを入念に考えておくことが重要です。
引き渡し・保守
客先にプラント設備を引き渡し、通常操業に移ります。
エンジニアリングはこれでひと段落ですが、
稼働から1~2年の保証期間が契約で定められている場合が多いので、
その間にトラブルがあれば対応します。
長くなりましたが、以上がプラントエンジニアリングの一連の流れになります。
まとめ
プラントエンジニアの役割と、仕事の流れを解説しました。
ポイントをまとめると以下の通りです。
- エンジニアリングとは、「科学技術を応用し、与えられた金と時間の中で、最適なモノやサービスを生み出す活動」をいう
- プラントエンジニアの役割は「最適仕様の設備を、安く、早く」完成させる事
- 多くのルール・法律を順守し、様々な知識を駆使しながら、関係先と密接にコミュニケーションを取ることが求められる
- プラントエンジニアリングは、仕様決め、基本設計、見積、契約、詳細設計、調達、工事、試運転、引き渡し、の流れで行う
皆様の参考になれば幸いです。